貴重資料展示室
第33回常設展示:2005年10月15日〜2006年3月23日
幕末の西洋一般書に見える天文
鎖国制度が続いた江戸時代、洋書の輸入は禁止されていたが、江戸中期、天文に興味を持ち、改暦を考えていた八代将軍徳川吉宗 (1684-1751) によって、洋書の輸入禁止をゆるめる命令が出された (享保五年(1720)、禁書令の緩和)。西洋天文暦書の輸入の解禁に始まり、洋書の輸入は徐々に広げられた。百科事典の一部翻訳や、翻訳された本をもとに日本的解釈を加えた本も書かれた。それらの本では西洋への興味の一端が示されている。
『紅毛雑話』 森島中良著 天明七年(1787) 刊本5巻5冊
長崎より江戸に表敬訪問に来た和蘭商館長から聞いた話を書き留めたものや、蘭学者たちから聞いた話などをまとめたもの。西洋の珍しい話が書かれている。また、図が豊富に描かれており、顕微鏡で覗いた穀粒などのスケッチもある。火星はギリシャ神話では軍神マルスとして表されるが、ここでは、武士の守り本尊である摩利支天として、紹介されている。
森島中良 (1754-1810) は 幕府蘭方医の家柄である桂川家の次男に生まれ、桂川家の旧姓森島を名乗った。彼も蘭方医として、兄桂川甫周を助けながら、多くの著作を書いた。
『気海観瀾広義』 川本幸民訳 嘉永四年(1851)〜安政五年(1858) 刊本15巻15冊
『気海観瀾』を補う形で、他の蘭書からも訳した物理学的記述を加えた本。巻の四に天文と潮汐関係の事項が書かれている。明治まで長く読み継がれた本だという。
川本幸民 (1810-1871) は幕末の蘭学者、蘭方医、物理学者。安政三年(1856)幕府の蕃書調所教授手伝いとなり、翻訳作業に携わった。
『西洋雑記』 山村昌永編 嘉永元年(1848) 刊本4巻4冊
山村昌永が大槻玄沢に蘭学を学びながらつけたノートから、西洋の歴史に関するおもしろい話をまとめた書物。この中に、西洋の暦や、天文の話が書かれている。この本は山村昌永が亡くなった後に刊行された。
山村昌永 (1770-1807 才助とも) は江戸後期、世界地理学にもっとも詳しかった蘭学者。著書に、総合的世界地理書ともいえる『訂正増訳采覧異言』(国立公文書館蔵) がある。
『気海観瀾』 青地林宗訳編 刊本1冊
究理学 (物理学) の書で、オランダの科学者ヨハネス・ボイスの本から青地林宗が訳して編集した。