暦Wiki
ΔTの推定†
- ΔTの決定には観測値が必要ですので、観測値のない将来やあっても精度の不十分な過去については予測や推定が必要になります。
- 比較した対象
- S1984:Stepheson et al. (1984)*1
- S2004:POLYNOMIAL EXPRESSIONS FOR DELTA T (NASA )*2
- S2016:Stepheson et al. (2016)*3
- S2020:Morrison et al. (2021)*4
- 観測値:BIHやIERSの公表数値から算出したもの。
現代のΔT(1955年以降〜現在)†
- 現代では原子時計の運用によって時刻が精密となり、ΔTも精密に決定されるようになっています。
- S2004の2005年以降は予測値です。たとえ数年先でも予測どおりにはいかないものです。
- S2016は、最新の暦や恒星位置・月縁情報により、過去の星食観測データを再整約して得た値です。
近代のΔT(1620年〜1955年)†
- 望遠鏡による星食観測などからΔTを求めることができます。
- 1650年以降については、概ね数秒〜十数秒程度の精度で決まっているといえるでしょう。
過去のΔT (紀元前720年〜1620年)†
- 長期的には、地球の自転は潮汐摩擦によって減速させられます。
- 潮汐摩擦の影響をΔTに換算すると、時間の二次関数で表すことができます。
- しかし、短期的には潮汐摩擦以外のさまざまな要因により、ΔTは複雑に変動します。
- したがって、二次関数的な長期トレンドとさまざまな観測記録を説明しうるような関数をミックスして、ΔTを推定していくことになります。
- 推定には、さまざまな時代、さまざまな地域における日月食等の観測記録が使われます。
- 日月食等データベースでは、ΔTを任意の値に変更することができます。
- たとえば日食でΔTを大きくすると、地球時でみた時刻は同じですが、世界時(UT1) でみた時刻は早くなります。
- その結果、地球が十分回転しきる前に月の影が地球に落ちることになり、影の軌跡である日食図は東に移ります。
- このように、ΔTが変わると日食が見える地域も変わりますから、これと実際に日食を観測した地点とを照合することで、過去のΔTを推定することができるわけです。
- 観測記録は必ずしも十分とはいえません。
- 時代によってはほとんど記録のない期間もあります。また、記録は予報なのか観測なのか判断のつかないことや、どこで観測したのかはっきりしないこともあります。
- 時刻の正確さもマチマチで、そもそも時刻がわからないこともあります。ただし、部分食が見えた・見えない、皆既食が見えた・見えないといった情報だけでもΔTの制限につながることもあります。
- したがって、観測記録の量や質にもよりますが、±数百〜千数百秒程度の誤差は免れないというところです。過去の日食や月食を調べる際にはこの程度の誤差が含まれることをふまえておく必要があります。
- たとえば、谷川らによる研究などを参照してください。
ΔTの長期トレンドについて†
- ΔT=地球時(TT)−世界時(UT1) ですから、
- 地球の自転が遅くなれば、UT1の進みは遅くなり、しだいにΔTは増加します。
- 逆に、地球の自転が速くなれば、UT1の進みは速くなり、しだいにΔTは減少します。
- 長期的には、地球の自転は潮汐摩擦によって減速させられますから、ΔTは単調に増加するように思えますが、実際にはそうなりません。
- これは上記の話が近年のようにUT1の進みがTTの進みよりも遅いことを前提とするものだからです。
- UT1の進みがTTの進みよりも速いときにはこの関係は逆になります。すなわち、
- ΔT1=TT1−UT11、ΔT2=TT2−UT12、TT2=TT1+δ、UT12=UT11+δ1とすると、
- ΔT2=TT2−UT12=TT1+δ−(UT11+δ1)=ΔT1+δ−δ1。
- 近年のようにUT1の進みがTTの進みよりも遅ければ、δ>δ1なので、ΔT2>ΔT1。つまり、時間とともに増加します。
- 地球の自転が速くUT1の進みがTTの進みよりも速ければ、δ<δ1なので、ΔT2<ΔT1。つまり、時間とともに減少します。
- したがって、両者の進みが同じになるあたりを境に、ΔTは減少から増加に転じることになります。
- これを絵で書けば、
- このように、過去を遡っても、未来に向かってもΔTは増大します。
- さらにいえば、このUT1間隔の変動量は長期的に見れば時間に比例するため、ΔTは時間の二次関数となります。
- 上図のように、ΔTとUT1の関係は過去でも未来でも同じですから、ΔTを大きくすると日食図が東に移るという関係は変わりません。
さらに過去あるいは将来のΔT†
- とりあえず関数を延長してみることは可能ですが、正しい値を確かめる方法はありません。
関連ページ†
Stephenson, F.R. and Morrison, L.V., Long-term changes in the rotation of the earth - 700 B.C. to A.D. 1980 , Philosophical Transactions of the Royal Society of London, A 313, 47-70, (1984).->
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Morrison, L.V. and Stephenson, F.R., Historical Values of the Earth's Clock Error ΔT and the Calculation of Eclipses , Journal for the History of Astronomy, 35, 327-336, (2004).->
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Stephenson, F.R., Morrison, L.V. and Hohenkerk, C.Y., Measurement of the Earth's rotation: 720 BC to AD 2015 , Proceedings of the Royal Society of London, A 472, Issue 2196, (2016). ->
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Morrison, L.V., Stephenson, F.R., Hohenkerk, C.Y. and Zawilski, M., Addendum 2020 to `Measurement of the Earth's rotation: 720 BC to AD 2015' , Proceedings of the Royal Society of London, A 477, Issue 2246, (2021). ->
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Last-modified: 2022-09-22 (木) 20:24:32