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日食の周期†
基本間隔は朔望月†
- 日食は軌道の交点付近で新月(朔)となる時に起こります。
- 地球は1年で軌道を1周しますから、そのような位置関係になるのは約半年に1回です。
- したがって、半年≒6朔望月後に反対側の交点で、1年≒12朔望月後に同じ側の交点で日食が起こるということがわかります。
- 日食各地予報のデータを利用し、実際に日食の起こる間隔を朔望月=29.530589日で割ってみると、
- 6朔望月、5朔望月、1朔望月という間隔で起こっていることがわかります。
- この並びには規則性があります。このパターンを網羅することができれば、いつどのような日食が起こるか、予測することができるわけです。
どれだけ交点に近いか†
- ただ観測するだけでは、日食周期の全パターンを網羅するのは難しいでしょう。
- 日食は見られる場所が限られますので、特定の場所で観測してもすべてを把握することはできません。天気の都合や欠けかたがわずかで気づかないこともあるでしょう。
- そもそもどれくらいの周期で全パターンが網羅できるかわからない状態ではなかなか判断がつかないことでしょう。
- そこで、天体の運動を予測し、日食が起こるかを判定する方法が必要になります。
- 日食の深さはどれだけ月が太陽を覆い隠すかであり、新月(朔)の際にどれだけ月が太陽に近づくかで決まります。
- これはどのくらい交点の近くで新月(朔)となるかという問題に置き換えることができます。つまり、交点からどれだけ離れているかによって、日食が起こるか、どのような日食になるかがわかるわけです。
- この距離は、交点を基準とした月の公転周期である交点月から算出できます。
- 交点の方向が変わらなければ、毎年同じ時期に日食が起こることになりますが、
- 交点の方向は約18.6年周期で回転します。
- 月の平均軌道昇交点に対する地球の公転周期である交点年がひとつの目安になります。
- 食年 (交点年) は約346.6日と12朔望月≒354日より短いため、食の間隔は5朔望月にはなっても、7朔望月にはなりません。
金環と皆既の区別には月と地球の距離も必要†
- 金環と皆既の違いは月と地球の距離に依存しています。
- 月は地球の周りを楕円運動しており、近地点側では皆既食、遠地点側では金環食となります。
- あるとき近地点側で日食=皆既食が見られたとすると、その半年後は遠地点側での日食となりますので金環食となります。
- 近地点からどれだけ離れているかは、近地点を基準とした月の公転周期である近点月から概算できます。
日食の周期†
- 基本要素は月食のときとあまり変わりませんから、日食の周期と月食の周期は基本的に同じ性質のものになります。
- サロス周期 (Saros)
- 223朔望月≒242交点月を基本とする周期です。およそ6585.3日≒18年と約11日になります。
- この周期ごとに番号=サロス番号をふると、日食を同じような特徴を持ったグループに分類することができます。
- 239近点月もこれにほぼ等しくなりますので、金環・皆既の区別もこの周期で繰り返します。
- 19食年 (交点年) もこれにほぼ等しくなりますので、1朔望月間隔の日食を1回と数えれば、1サロスの間に38回の日食があることになります。
- 6朔望月、5朔望月、1朔望月という間隔の並びもこの周期で起こります。
- サロス周期をもとに作られた古代バビロニアの粘土板が見つかっています *1。
- 横に38の日付、縦に223朔望月離れた日付が並んでおり、まさにサロス周期を表わしています。
- なお、サロスという名称は本来古代バビロニア人が602=3,600年を表わすために用いていた言葉であり、日月食の周期を意味するものではありませんでした。いくつかの誤解を経てこの周期を指すようになってしまったのだそうです*2。
- Antikytheraの機械には223朔望月周期の文字盤があり、いつ日月食が見られるかを予測できるようになっていました。
- 単に1サロスだけではなく、3分割された副文字盤によって、3サロスすべての予測が可能でした。
- まず、目盛りに書かれたグリフと呼ばれる記号から、日食や月食が何時に起こるかを読み取ります。
- その時刻に、周回数に応じて副文字盤が示す時間数 (0)、8、16 を加えます。
- 日食なら昼、月食なら夜に起こるものが見られる可能性のある現象となります。
- 古代中国では月食の周期を元に予測法が整備されはじめ、魏の景初暦のころから日食の予測もできるようになりました。
- マヤ暦では135朔望月の3倍にあたる405朔望月周期が使われていました。405朔望月の間に69個の食があることを使って予測します。
関連ページ†
Aaboe, A. et al., Saros Cycle Dates and Related Babylonian Astronomical Texts, Transactions of the American Philosophical Society, 81, No. 6 1-75 (1991).->
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Lynn, W. T., The Chaldean Saros, The Observatory, 12, 261-262 (1889).->
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Last-modified: 2022-10-26 (水) 13:35:11