暦Wiki
日本の本初子午線†
- 江戸時代は京都が基準でした。
- もちろん江戸時代には十分な精度の時計は普及しておりませんから、日常生活における時刻は各地における南中時(地方視時)をもとにした不定時法によって定まります。
- 一方で、暦や地図についてはどこかしら基準が必要であり、それが京都とされていました。
- 宣明暦までは中国の暦をそのまま利用しておりましたが、渋川春海は里差=経度差を考慮して、日本にあわせた大和暦 (貞享暦) を作成しました。
- 元の首都である大都=現在の北京と京都の里差は5刻としています*1。
- 1日=100刻ですから、5刻=5÷100×24=1.2時間となります。
- 伊能忠敬の作った精密な日本地図である伊能図も、京都西三条台の改暦所が基準とされています。
- 明治5年までは天保暦 / 不定時法を使用する一方、徐々に西洋の時刻制も使われ始めていました。
- 明治06年 (1873) に太陽暦が導入されると時刻も西洋式の時・分・秒に改められ、明治12年暦まで暦面上は「東京時刻」が用いられるようになりました。
- 英国暦との比較により、グリニジとの時差はおよそ9時間19分1秒であることが確認できます。
- 暦には明示的に書かれておりませんが、水路部沿革史によれば「明治6年11月、政府刊行ノ太陽暦ハ東京皇城ノ経緯度ヲ初度ト定ムル旨 文部省ヨリ照復ス」とあり、旧江戸城の天主台が基準だったようです。
- 明治05年太政官布告130号 (国立国会図書館 ) によれば、海軍では海軍省標竿の経度を139°45′25.05″=9時19分1.67秒としています。しかし、海軍省標竿は東京天守台に比べて3.5秒ほど東に位置するはずですので、整合性が取れていません。
- 東京を中度あるいは初度とする各地の時差 (経度差) が掲載されています。
- 二十四節気の時刻などを変換するために使うとあり、当時は地方ごとに時差があったことがわかります。
- ただし、この経度差は大日本経緯表に記載された江戸浅草司天台が基準となっており、整合性が取れていません。おそらく測量が完了するまでの暫定的な扱いだったのでしょう。
場所 | 京都基準 | 英基準 | 東京基準 | 時差 | 備考 |
東京 | 4°04′04.5″ | 139°50′19.5″ | 0°00′00″ | 0時00分00秒 | 江戸浅草司天台 |
函館 | 4°59′19″ | 140°45′34″ | 0°55′14.5″ | +0時03分41秒 | 亀田波止場 |
京都 | 0°00′00″ | 135°46′15″ | 4°04′04.5″ | −0時16分16秒 | 中度 |
兵庫 | 0°32′54″ | 135°13′21″ | 4°36′58.5″ | −0時18分28秒 | 筑島寺 |
長崎 | 5°53′25″ | 129°52′50″ | 9°57′29.5″ | −0時39分50秒 | |
琉球首里 | | | | −0時47分55秒 | 首都 |
内務省地理局時代†
赤坂葵町†
- 内務省地理局測量課は赤坂区溜池葵町にありました。
- 明治7〜8年のダビソンらにより東京天守台は139°45′46″=9時19分3.067秒とされました。明治10年、これと三角測量をあわせて24インチ経緯儀の経度を暫定的に139°45′10″=9時19分0.67秒と定めたそうです。
- 赤坂葵町は東京天主台に比べ、2.5秒ほど西に位置します。しかし、ダビソンらの成果がそれまでより2秒ほど大きなものだったため、差し引きしておよそ9時19分0.5秒とあまり変わらない値になりました。明示的ではありませんが、この変更は明治11年暦から行なわれ、明治16年暦でも微修正が行なわれたようです。
- 内務省地理局による測量事業の進展に伴い、時差表も順次整備されていきます。
- このころ使われていた24インチのトロートン・シムス経緯儀は、現在では天文台歴史館に展示されています。
場所 | 時差 (M13〜) | 経度差 (M15〜) | 時差 (M15〜) | 備考 |
東京 | 0時00分00秒 | | | 赤坂葵町 |
函館 | +0時03分55秒 | | | |
札幌 | | | +0時06分28秒 | |
西京 | −0時15分35秒 | 3°58′59″ | −0時15分56秒 | 京都御苑内測候所 |
大阪 | | 4°13′21″ | −0時16分53秒 | 大阪城内天守台 |
兵庫 | −0時18分14秒 | | | |
長崎 | −0時39分34秒 | 9°52′40″ | −0時39分31秒 | 長崎港鍋冠山 |
琉球首里 | −0時47分55秒 | | | 〜M16 |
那覇 | | | −0時48分20秒 | M17〜 |
東京天守台へ†
場所 | 時差 | 備考 |
東京 | 0時00分00秒 | 東京城内天守台 |
函館 | +0時03分53秒 | |
札幌 | +0時06分25秒 | |
西京 | −0時15分58秒 | 京都御苑内測候所 |
大阪 | −0時16分56秒 | 大阪城内天守台 |
兵庫 | −0時18分16秒 | |
長崎 | −0時39分33秒 | 長崎港鍋冠山 |
那覇 | −0時48分20秒 | |
経度の統一†
- 明治20年暦:「東京内務省地理局観象台平時」と記載され、「東京天主台を初度とする」と明記されています。
場所 | 時差 | 備考 |
東京 | 0時00分00秒 | 東京天守台 |
函館 | +0時03分52秒 | |
札幌 | +0時06分30秒 | |
西京 | −0時16分01秒 | |
大阪 | −0時17分06秒 | |
兵庫 | −0時18分27秒 | |
長崎 | −0時39分32秒 | |
那覇 | −0時48分20秒 | |
グリニジ基準へ†
場所 | 経度 | 時差 | 備考 |
東京 | 9時19分01秒 | 0時00分00秒 | 東京天守台 |
函館 | | | 記載なし |
札幌 | | | 記載なし |
仙台 | 9時23分30秒 | +0時04分29秒 | 愛宕山*3 |
西京 | 9時03分03秒 | −0時15分58秒 | 京都御苑内測候所 |
大阪 | 9時02分05秒 | −0時16分56秒 | 大阪城内天守台 |
兵庫 | | | 記載なし |
長崎 | 8時39分28秒 | −0時39分33秒 | 長崎港鍋冠山 |
那覇 | | | 記載なし |
関連ページ†
- 本暦
- 参考文献
- 『水路部沿革史』
- 『内務省年報・報告書』
- 前山仁郎, 明治時代の本邦時刻 (2), 天文月報 第46巻第1号 , (1953).
- 伊藤節子, 明治改暦後の官暦の数値について (I), 東京天文台報, 第15巻, 第1冊, (1969).
- 伊藤節子, 明治前期における子午線経度の変遷, 東京天文台報, 第19巻 第4冊, (1982).
Last-modified: 2020-02-18 (火) 14:07:39